一般医療機関(病院)受診の手引き
ハンセン病回復者が安心して病院へ行くために

平成15年度厚生労働科学研究:ハンセン病患者及び元患者に対する一般医療機関での医療提供体制に関する研究(石井則久ほか)
2004年2月27日作成、2008年1月21日改訂
手引きを入手希望の方は、日本ハンセン病学会、または石井則久(電話 042-391-8211)まで ご連絡ください。

◆この手引きの使い方

 この手引きはハンセン病回復者(元患者、退所者)の方、及び患者さんが安心して一般医療機関に受診するための案内書です。一般医療機関とは、診療所(クリニック、開業医)、病院、大学病院などのあらゆる医療施設を含みます。この「手引き」と同時に、医師向けのハンセン病診察の「手引き」も作りました。受診するときは「医師向け手引き」も持っていきましょう。ハンセン病をよく知らない医師もいるかも知れませんので、その時にはお渡しください。

 ハンセン病そのものの診療を希望する場合、あるいは受診する診療科が分からない場合には、先ず皮膚科を受診して下さい。ただし、眼や歯、胃腸などの症状で受診するときには、眼科や歯科(歯医者)、内科(胃腸科)などの専門の科を受診することになります。

◆医療機関の仕組み

 開業医、病院、大学病院など、いずれの医療機関に行くこともできますが、当日診療をしていないこともあるので、事前に電話などで問い合わせてください。

患者さんは、一般には先ず開業の医師ないし病院に受診することが多いようです。さらに高度で専門的な治療を必要とする時には、大病院や大学病院を紹介されることがあります。そこでは専門の医師が各科に分かれて診療にあたり、一人の主治医が全部の症状を診ない場合もあります。

 初診のときにはいろいろ聞かれます。再来は予約制のところも多くなり、待ち時間が少なくなりましたが、診療も短時間になることが多いようです。

◆医師、看護師のハンセン病に関する認識

 高齢の医師、高齢の看護師、一部の皮膚科医を除くと、ハンセン病の患者さんを診療した経験はありません。また、学生時代の教育はさらりと学ぶ程度ですので、皆さんが「ハンセン病でした」と告げないと分からないかも知れません。むしろ、皆さんの方が病気についての知識が豊富かもしれません。しかし、まだ「ハンセン病は療養所に入所させる」、と誤解している医師・看護師が少数ですが、いるかもしれません。そのような医療関係者には、「回復者は治癒しています」、「患者でも菌の感染力は弱いため他人への感染の心配はありません」、など皆さんから、正しい知識を説明してあげてください。

 

ハンセン病患者診察経験(横浜市内5区の医師会員のアンケートから、ほとんどの医師は診察経験ありません)

大学病院の皮膚科、眼科、神経内科、整形外科、リハビリテーション科での診察経験 
  
   

(アンケートから、個人の医師でなく、診療科としての診察経験です)

コラム 回復者の言葉

「診療時に初めて医師に接したとき、気後れしないよう普通に接すれば医師も気さくに話を聞いてくれます。自分が不安の態度を取らないこと。ハンセン病については、一般病院の医師は実態をほとんど知らないのが実情です。逆に質問を受けることもありますが、明るく受け止めて答えれば何の心配もないのが、経験から分かりました。医師や看護師には偏見はありません。」

◆病気になった時

*開業医(クリニック)への受診

皮膚症状:皮膚科、 眼の症状:眼科、 後遺症:皮膚科ないし整形外科、神経内科

 まず、受診時には「プライバシーはもちろん守っていただけますね。」と一言念を押しましょう。分かりきっていることですが「うっかり」の予防には効果的です。多くの医師は短時間で診察を行っているので、じっくり診察を期待される方には不適当かもしれません。

 複数の病気があるときは、はじめから病院や大学病院を受診する方が便利です。また緊急の病気の時は119番に電話をしてください。

*病院への受診

後遺症については、皮膚科、整形外科のほかにリハビリテーション科がある場合は、そちらへ受診すると良いでしょう。

午前中が主な診療時間ですが、午後に特殊外来ないし専門外来などがあり、その外来ではじっくり診療してくれることもあります

多くの大学病院が開業医ないし病院からの紹介状持参を希望しています。大学は最先端の医療とともに若い医師や医学生の教育の機関でもあります。ハンセン病およびその後遺症を診療する機会はほとんど無いので、皆さんが受診される時、医学生たちが見学することがあります。皆さんの方が医師より詳しいときは、ハンセン病について教えてあげてください。そうすることで、ハンセン病の正しい知識をもった、理解ある医師を育てることにもなります。

コラム  40代眼科医(横浜市、開業)

普通の患者さんと変わりありません。最新の知識で診療をしていますので、必要以上の気遣いはかえって差別を助長すると思います。

ハンセン病とわかった場合(新患、回復者)の大学病院診療科の対応

◆初めての診療、または受診が不安な場合

ハンセン病を主体的に診療するのは皮膚科です。初めての場合は皮膚科単独の看板を掲げている皮膚科か、病院あるいは大学病院の皮膚科に行きましょう。現在、皮膚科はほとんどの新患を受け入れ、治療しています。しかし、皮膚科医でもハンセン病の患者さんを一度も診たことがない医師がほとんどです。現在の症状、悩みなどを説明してください。そうすればきちんと対応してくれます。対応できない時は近在の知識の豊富な皮膚科医に紹介してくれます。なかなか話が通じない場合は、この冊子を出して読んでもらって下さい。

受診に不安な場合は以下の3つの方法を活用してください。既往歴として「ハンセン病」を言いにくい場合は、最後の一覧表の医師、または社会福祉士(ソーシャルワーカー)に相談してください。

  1. 最後に掲載してある皮膚科に電話で受診日を聞いて、行きましょう。そこで症状にあった医師(整形外科、眼科、神経内科など)を紹介してもらいましょう。そのとき紹介状に「ハンセン病」、「プライバシー尊重」のことを記載してもらいましょう。また以前、ハンセン病療養所に勤務していた医師も掲載してありますので、事前に電話で連絡を取り受診してください。
  2. 病院や大学病院ではソーシャルワーカーがいる場合があるので、まず、ソーシャルワーカーに電話で連絡を取り、受診の時に付き添ってもらいましょう。
  3. ハンセン病療養所の医師またはソーシャルワーカーに連絡を取って、病院を紹介してもらいましょう。

◆ハンセン病の再発が心配な場合

最後のページに掲載の医師に電話で予約を取り受診しましょう。皮膚については皮膚科を、神経症状については神経内科または皮膚科の医師に相談しましょう。

◆体のどこかの具合が悪い時

一番心配なのは、「ハンセン病」であったことをどのように説明するか、です。心配要りません。今あるのは単なる後遺症ですからきちんと説明しましょう。ハンセン病と知って診療を拒否したり、毛嫌いする医師はいません。ハンセン病やその後遺症についてあまり知っていないだけです。末梢神経が障害され、後遺症になっているだけであることを説明してください。特に知覚(痛み、温度感覚)の無い部位を説明しないと、採血や血圧測定、色々な検査のとき困ることがあります。手が曲がっていたり、足の裏の潰瘍(ウラキズ)などは神経が障害されたためであること、そして、治っているので菌はいないこと、そして人にうつすことは無いことなども説明しましょう。どうしても心配な方は、診療時にソーシャルワーカーの受診支援を依頼しましょう。

コラム 回復者の声

「足のウラキズについては温痛覚が無く、外傷が反復し、傷が治らなくなったことをよく説明すること。」

◆ハンセン病の説明の仕方

医師はハンセン病=らい、と知っていますが、「らい予防法」や療養所のことなどについては聞いたことがある程度です。「手が不自由なのはハンセン病の後遺症のためです」とずばりと言ってください。もちろん、ハンセン病は治っていて、人にうつすことも無いことも言いましょう。それで変な顔をしたり、変な言動をする医師には、「医療者向け手引き」を渡して、読んでもらいましょう。どういう後遺症が残っているかと聞かれたら、不自由なところや知覚の無い部位を話しましょう。日常生活で困っていることの情報も知らせると、医師・看護師はその後の対応(介助の必要の有無など)の参考になります。また、過去のこと、家族のことについて聞かれますが、「この点は言いにくいのですみません」と断って結構です。言う点と言わない点を明確にすると医師も納得できます。ただし、今までの治療歴(今まで飲んだ薬)ははっきり言ってください。

ハンセン病の既往歴があることを言っておくと、以後の医師との関係もスムーズです。言い出しにくい時は、「手引き」を医師に見せましょう。特に、後遺症の説明をせずにいると、手術、麻酔、検査、処置などの時に医師・看護師が思わぬミスなどをすることがあります。「ハンセン病」はもう市民権を得ていますので、心配無用です。

コラム (大学病院 整形外科医)

易感染性でないことが分かっているので、最初にはっきり既往の病気について言って頂いた方が、混乱無く対応できます。

◆入院の場合

病室は通常、相部屋(2人から6人程度)です。差額料金(病院によって値段が異なる、1日、5,00050,000円程度)を払うことで個室になることも可能です。付き添いについては、各病院の方針があり、不可能な場合もあります。付き添いについては、入院が決定したときに、日常の動作で何が不可能か、不自由かなどを看護師にはっきりと述べ、納得のいくまで入院時の対応を決めて下さい。入院申し込みのとき、入院する病棟の看護師にも内容がはっきり伝わっているかどうか確認しましょう。病棟では不自由な点などを看護師にきちんと説明してください。元ハンセン病の患者であることで特別丁寧に看護することはありませんが、差別されることもありません。入院生活と診療面で不便な点や不自由な点があれば介護、介助してくれます。退院時に医師や看護師に感謝の言葉は必要ですが、金品や品物を渡すことは全く不要です。

コラム 回復者の言葉

「知覚麻痺部位の手術後の抜糸は普通より期間を長くしていただくよう説明すること。看護師には、手足の知覚麻痺のあることを伝えておかないと入浴時や足浴時に湯加減をしてくれないことがある。

また、相部屋になったときも、ベッドに仕切りカーテンがついているので慣れるまでは使用しても良いが、なるべく会話を持つようにすれば、相手も親しくしてくれ、手助けもしてくれます。障害についてはあえてハンセン病のことを言う必要はない。相手も互いに病気のことに触れないのが一般的です。入院中はみな同じ境遇ですので、あまりハンセン病にこだわらない方が回復を早めると思います」

コラム 回復者の家族

「手が不自由なので、トイレの時困ることを言ったのですが、付き添いは不要と言われ、本人は困っていました」 注:ソーシャルワーカー、看護師長に相談しましょう

◆ハンセン病療養所で診療を希望する場合

受診を希望される方は事前に各施設の福祉課(福祉室)に電話で問い合わせしてください。各施設の連絡先は最後に記載してあります。

◆医療費について

お持ちの健康保険証書(以下、保険)の種類によって支払う金額は異なります。自費といって、保険でカバーできない費用があります。差額ベッド代、保険でまかなえない検査や薬、などは個人払いです。受診医療機関にソーシャルワーカーがいる場合は、相談してください。プライバシーを守って詳しく説明してくれます。



沖縄県ゆうな藤楓協会

900-0024沖縄県那覇市古波蔵133

TEL:098-832-9528 FAX:098-833-5615

外来日:水曜日1300-1600、 医療相談は月曜日から金曜日の900-1600



京都大学医学部付属病院皮膚科皮膚神経外来

606-8507京都市左京区聖護院川原町54

TEL: 075-751-3111 HP: http://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/~skin/clinic_office.html

外来日:第1、第3木曜日 1330-1530